Windows は Mac よりもキーボードでの操作に配慮されている、という話をよく聞きます。確かに Mac では、コントロールへのフォーカス表現や、メニュー類へキーボードからアクセスする手段が、長い間かなり限定されていました。
ただし僕の見る限り、「マウスだけで操作しようとする」ユーザーが多いのは Windows の方です。右手にマウス、左手はショートカットのポジションに、というスタイルで操作している人をあまり見ません。ユーザーの平均的な習熟度に差があるとか、右クリックが充実しているからキーボードショートカットが必要ないとか、やる人はキーボードだけで全部やってしまうとか、そういう理由もあるのでしょうが、僕が思うに、Windows ではキーボードショートカットがいまいち使い物にならないから、Mac 式のスタイルだと操作が効率化されないというのが理由ではないでしょうか。
そもそも Ctrl キーを起点にしたキーコンビネーションはタイプしづらくて手がつりそうになりますし、アプリケーションごとの一貫性も驚くほど低いです。これだと「手が覚えてしまう」ような状態にはなりにくいでしょう。コピー&ペーストぐらいが関の山で。
また Windows におけるメニュー項目やボタンの選択においては、ニーモニックというまた別なショートカットも併用されるので、なんだか複雑に見えるということもあるでしょう。
GUI における「目的語 → 動詞」のシンタックスの内、後半の「動詞」の部分を「手が覚えた」キーボードショートカットで行うことができると、もはやシンタックスには段階が無くなり、手続きを計画するという認知負荷が相当軽減されます。これによりユーザーの意識は作業の対象物と一体化したようになり、いわゆる「フロー感覚」を得やすくなります。
そもそも GUI の操作の中では、あまり意識されていませんが、「目的語」と「動詞」の指定が一体化したジェスチャも多く一般的になっているのです。例えばダブルクリックは「対象選択」と「開く」を同時に行うジェスチャですし、ドラッグ&ドロップは「対象選択」と「移動」が一体化したものです。更に、ウィンドウにスクロールバーが発生している時に、ウィンドウ内のオブジェクトをドラッグしてウィンドウの端まで持っていくと、その方向に自動的にスクロールするといった振る舞いは、「対象選択」「移動」「スクロール」という操作をひとつのジェスチャーで実現するものです。
これらのジェスチャが自然に実装されていて、思い通りの振る舞いをしてくれる時、ユーザーは手続きとしてのリニアな操作ステップを意識しなくてもよくなります。その時 GUI は最も強力なツールとなるのです。