その頃また別のクラスで、それは物理の授業でしたが、Mac を初めて操作しました。物体の落下速度を計測するみたいな授業で、教師が、「これは生物の授業ではないが、今日はマウスを使います」とかいうジョークを飛ばしつつ、各テーブルに用意してあった Mac のスイッチを入れていきました。その実験のためのアプリケーションが Mac で動くものだったのです。
「この中で、マウスを使ったことがない人いますか?」と教師がたずね、何人かの生徒が手をあげました。僕も手をあげました。すると教師は、「では君たちはまずこのアプリケーションを使ってみてください」と一台の Mac の画面を指差しました。そこには、髪の毛を七三に分けた、目が点でできている男の漫画が映っていて、「Macintosh Basics」というタイトルが表示されていました。例の、マウスの練習やデスクトップメタファの学習をするチュートリアルプログラムです。
僕はそれが楽しくて、何度も繰り返しやりました。マウスによるインタラクティブな反応も楽しかったのですが、金魚に餌をやりすぎると七三男に注意されるみたいな、遊びネタが付加されているところが気に入りました。こちらの行動に応じて様々な反応を示すコンピュータは、まるで生きた存在であるかのように感じられました。
プログラミングという作業がどういうものか何のイメージも持っていなかった僕にとって、そのイベントドリブン(もちろん当時はそんな言葉は知りませんでしたが)な世界は、いったいどうやってできているのかとても不思議でした。膨大な反応のバリエーションがあらかじめ裏に用意されているのだとは(そんなめんどくさいことをする人がこの世にいるとは)、思いもよらなかったのです。