Afterword

僕はよく自動販売機で缶コーヒーを買うのですが、あの釣銭返却レバーを見るたびに、そこに無反省なブルジョアジーを感じて気分が悪くなるのです。なぜ自販機というのは硬貨投入が先で商品選択が後なのでしょうか。硬貨投入が先であるために、商品選択待ち状態というモードが発生するのです。商品選択が先なら、モードをキャンセルする返却レバーは不要になり、操作も自然になるはずです。

巷ではユーザビリティの重要性が叫ばれ、良いデザインを実現するためのプロセスについて諸説を耳にするようになりました。しかしそのほとんどは、プロセス自体に冗長性を持たせるだけの保守的なものであり、シリアライズされた言語的な理論にすぎないのです。そこからは、要するに良いデザインとはどういうものか、という疑問に対する具体的な回答を得られないのです。ましてや、僕が実際のUIデザイン案件を通じて感じてきたイデオロギーギャップについて言及しているものは皆無です。

コンピュータメディアに新しいサービスが現れると、人々はそれにまつわるコミュニケーション論やコミュニティ論を展開します。けれどサービス像の具象化を担うデザイナーの立場からすれば、まず議論すべきはデザインのコミュニズムなのではないかと思うのです。そのデザインは、いったい誰に力を与えるものなのか、と。

そんなことを考えながら、ある夜、会社からの帰り道、缶コーヒーを飲みながら僕は、何げなく iPhone で古い友人の名前を検索してみました。ずっと前に、彼とデザイン論みたいなものを交わしたことがあったなあと思い出したからです。というのは嘘で、本当は彼が清志郎について何か書いてるんじゃないかと思ったからなのですが。それで僕は彼がデザインについて書いているブログを発見しました。それがとても面白かったので、僕も何か自分の考えを書いてみたいと思いました。帰宅途中の坂道で書くデザインについての連載小説。それがこのブログを書いたきっかけです。

これで「Modeless and Modal」は終了します。

最後に、さっき浅野さんに教わった記事から、かっこいい言葉を引用しておきます。

In particular, if we think about Interactive Design, the highest goal should be to empower people to create their own meaning spaces, not solve pre-determined problems or even make great experiences. – Philip van Allen

それでは、近いうちに、野音か亀戸中央公園あたりでお会いしましょう。

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5 Responses to Afterword

  1. kazu says:

    Suicaの自販機では先に商品を選択しますね。全然本題と関係なくてすみませんが(謎

    • ueno says:

      そうですね。本来その方がいい(まあ順不同でもいいですけど)と思うのですが、全部がそうなってくれないと、混乱してしまいますね。

  2. くぼた says:

    堪能しました。
    いや、正直、私にはむずかしくてよくわからなかったんですが、ただごと(もの)じゃないってのだけは、よ〜くわかりました。
    にしても、小説だったとは……。SFですか? それとも予言書?

    • ueno says:

      あ、いつもありがとうございます。
      これはあれです。大衆小説です。「てんやわんや」みたいなのを目指したんですけどね。
      ってこの前言いませんでしたっけ?
      言ってないか。

  3. 中内淑文 says:

    はじめまして、中内と申します。大阪でGUIの事務所をしております。
    ソシオメディアさんの事は存じておりますが、こちらのブログは知りませんでした。
    サーフィンの途中にこちらに辿り着き、余りの面白さに一気読みさせていただきました。堪能致しました。今後の更なる御活躍を期待しております。