Optimism

良い製品の背景には、「モードレスな人がモードレスな活動によってモードレスな道具を作る」という構図があります。しかしこれは、ビジネスにおいてはなかなか厄介なことです。

仕事がモードレスであるということは、要するに、無計画であるということです。企画段階や設計段階で、作業の計画を立てられないということです。やってみないと、良いものが出来上がるかどうか分からないのです。はじめのうちは、何が出来上がるのかさえ分からないのです。当然スケジュールを立てたり工数を見積もることもできません。いつ完成するのかは、完成の5秒前ぐらいになってやっと分かるのです。これではビジネスになりません。少なくとも、現代の請負型案件としては成立しません。

モードレスな人というのは、やることが決まっていると仕事がつまらなく感じます。やることは自分で決めたいのです。しかも、やりながら決めたいのです。計画どおりにプロセスが進むことに、何の充足感も安堵感も覚えないのです。それよりも、先の分からない状態からスタートして、自分のノミのひと振りひと振りによって、大理石の中から徐々にダビデ像が出てくることに喜びを覚えるのです。仕事のモチベーションは自己満足にあります。与えられた課題に対して、何かうまいソリューションを生み出せそうかどうかは、自分の経験から感覚的に判断するしかありません。だから楽観主義者でないとやっていけません。

一方、モーダルな人というのは、事前に綿密な計画を立てて、それを正確に実行することに価値を見出します。どれぐらいしっかりとした計画を作れるかが最大の課題であり、次にその計画を遂行するための忍耐力や持久力や調整能力がチャレンジの対象になります。スケジュールや工数を見積もれないような状況は仕事をする状況ではありません。そして計画どおりに仕事が終われば、それが達成感になります。計画どおりに仕事が進まず、想定していたものと違うものが出来上がってしまったら、それは失敗です。最初の段階で出来るかどうかを判断できないのなら、出来ないのと同じなのです。様々な失敗要因を想定して、それらを回避しなければいけません。失敗の想定が不十分な状態でプロジェクトが開始されると、不安で眠れません。基本的に、悲観主義者なのです。

組織においては、一般的に、モーダルな人の方が評価されます。その人の価値を定量化しやすいからです。それに、複雑なものを一定のコストで作り上げるには、仕事をシステマティックに整理する必要があり、モーダルな人によるモーダルな活動でないと成立しないのです。その結果出来上がるものは、当然モーダルなものになります。

組織が大きいほど、その組織内で行われる取り組みはモーダルになっていきます。組織が大きいほど維持コストの割合が増えるのと同じです。社会全体で見れば、システムを維持するためのシステム、手続きのための手続きが、膨大に発生しています。

そのこと自体はどうしようもないのかもしれませんが、デザイナーの価値観は違うところにあります。モードレスな取り組みによってモードレスなものを作りたいのです。それは恐らく、複雑なものをシンプルにする活動なのです。しかしそういう人や活動は、価値を客観化しづらいので、モーダルな人々、つまり組織からは疑問視されがちです。出世するのは難しいかもしれません。歯車として社会の機構に当てはまらないからです。鉄郎みたいな存在なのです。

  • モードレス:楽観主義
  • モーダル:悲観主義
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