僕は物理については全然詳しくないのですが、それでも生活の中で感じ取っている自然界の物理法則(によって生まれる一貫性のある現象)というものがあります。例えば物は下に落ちるとか、置いてある物は動かさない限りずっとそこにあるとか、重たい物ほど強く握らないと持ち上げられないとか、走ってて転ぶと歩いてて転ぶより痛いとか、そういうことです。このような「全ての物に共通した性質」を自然界における「スーパークラスのメソッド」と考えて、スクリーン上のユーザーインターフェースにも適用すれば、コンピュータはもっとモードレスになれると思います。
単にタンジブルにすればよいという意味ではなく、論理的な存在である情報オブジェクトに対しても 、物理法則を参考にしたインタラクションが有効だろうということです。
例えばデスクトップに置かれたファイルアイコンは、ファイル本体へのポインターと、メタ情報としてのアイコンを表示しているだけの論理的な存在ですが、我々はそれを作業対象である書類そのものの外観として認識しています。我々の認知は GUI の箱庭に自然に浸かっているわけです。そうであれば、アイコンが置かれた座標は自分が動かさない限り意地でも変わらないでほしいのです。
iPhone の Cocoa Touch が提供する独特なスクロール感などは、かなり緻密に物理的な反作用をシミュレートしていて、タッチ操作に「触感」を与えています。
また見た目だけの話ではなく、ユーザー設定の内容など、自分が変更したものは全て、自分が再度変更を加えない限りもとの状態である方が、自然で、学習効果も高いはずです。
このあたりの実装は、UIの中にモーダルなコンセプトが多くなるほど実現が難しくなります。よく言われることとして例えば、OS9 までの Mac の Finder では、フォルダとそれを開いたウィンドウは常に1対1の関係だったので、アイコンやウィンドウはほぼ完全に前回見たままの状態を再現していました。これが OS X になってブラウザ式のコンセプトに変わったために、Finder ウィンドウは「フォルダ」というオブジェクトではなく「ディレクトリのブラウズ」というタスクになってしまいました。もちろんこれはこれで便利であるという側面もありますが、その結果として、アイコンやウィンドウの視覚的な一意性が失われ、作業がより概念的な計画を要するようになった事実は否めません。
ただし Apple の面白いところは、この「タスクとしての Finder」を積極的に活用して、スマートフォルダやフォルダアクションなど、モードを肯定した上で、そのモードをオブジェクトのように見せるという方向で進化させたことです。これは OOUI を考える上で、モードが必要になってしまうインタラクションをどのように表現すべきか、という課題に大きなヒントを与えています。