技術文書を読んで泣く奴があるかと自分でも呆れましたが、それは技術文書というよりも、哲学書か思想書のようなものでした。実際、冒頭の「What’s in This Book」という内容紹介には、この本は The Basic Philosophy、The Interface Elements、Appendix で構成されていると書かれています。
その哲学は、第一章の「The Human Interface Principles」に集約されています。デザインの原則として、メタファーを使うことや、直接操作を可能にすること、ユーザーにコントロールを与えることなど、いくつかの基本方針が謳われていて、Mac 自体のUIデザインの成り立ち、そして Mac のアプリケーションを書くデベロッパーが覚えておくべき心得が説明されているのでした。
簡単に言えば、ユーザーにとって使いやすいことが第一義であり、そのためにはよく考えてUIをデザインしなければならないということです。UIがダメなら他は全部意味を無くすということです。
今となっては、当たり前過ぎて、なぜ自分がそれ程までに感銘を受けたのかよく分からなくなっているのですが、とにかくその時は、「使いやすさを実現するための技術」というものに正面から取り組む姿勢が、強烈に進歩的で、 人類を解放に導くもののように感じたのでした。Apple にしてみれば、もう十年以上前から主張してきたことだったわけですが。
その頃僕はまだ、ユーザビリティーとか UCD といった言葉はおろか、そういう類いの研究領域があることすら想像したことが無かったので、尚更、Apple の Human Interface Guidelines が大きな扉を開いたように思ったのです。
僕はそれまで、Mac の楽しさは偶然の産物だと思っていました。けれど Human Interfece Guidelines を読んで、その考えが間違っていたことを知りました。Mac の楽しさは、かなり意図的に、膨大な研究と試行錯誤の上に実現されていたのでした。
デザイン原則として挙げられているのは次の項目でした(1995年板)。
- Metaphors
- Direct Manipulation
- See-and-Point
- Consistency
- WYSIWYG
- User Control
- Feedback and Dialog
- Forgiveness
- Perceived Stability
- Aesthetic Integrity
そして、一番最後の項目として、
- Modelessness
というものがありました。
僕はその、間違ったですます言葉みたいな響きに、なんだか強く惹かれました。モードレスネス …?