User-Side

スクリーンを空間として扱い、そこにユーザーの関心の対象であるオブジェクトを示し、ユーザーがそれに直接触れながら好きな方法で目的を達成できるようにする。それが OOUI のコンセプトです。

スクリーン上に見えているのは、全て(タスクとの対比としての)オブジェクトであることが望ましいのです。メニューやボタンは、「目的語 → 動詞」のシンタックスにおける「動詞」選択のコントロールなので、できればこれらの関節的なコマンド指示は用いずに、オブジェクトに対するジェスチャに同化させた形で「動詞」を指定できるようにすることが望ましいのです。そのイディオムが自然なものであれば(アイコンをドラッグして移動したり、ウィンドウをクリックして作業対象のクラスを切り替えたりなど)、手順を事前に計画するという認知的負荷を軽減することができます。

スクリーンにオブジェクトを示し、ユーザーがそれを扱えるようにするということは、つまり、システムの利用にユーザーが主体的に関与できるようにし、コンテクストをユーザーに解放するということです。システムの提供者は、オブジェクトの性質に合わせてその存在を素のまま見せることが望ましいのです。というか、そういうオブジェクトの性質を決定するのが提供者もしくはインタラクションデザイナーの役割でしょう。

ということで、そろそろウェブの話をしなければいけません。

ウェブには大きく「能動型」と「受動型」があると思います。能動型とは、そのウェブをユーザーが能動的に操作して何らかの知的生産活動を行うもの。つまりアプリケーションとしてのウェブ。受動型とは、運営者が提供するコンテンツをユーザーが受動的に閲覧するもの。つまりメディアとしてのウェブです。両者の境界は必ずしもはっきりしていなくて、アプリケーションにはデータオブジェクトとしてのコンテンツが格納されていることが多いですし、メディアの操作にはアプリケーションとしてのユーザーインターフェースが必要です。

しかし一般的に、能動型と受動型では設計視点が異っています。能動型がコンテクストをユーザーに委ねるのに対し、受動型は、提供者がそれを管理し、主導しようとするのです。その意味で、両者はモードレスとモーダルの関係にあります。そして両者の思想的な隔たりは、年々大きくなっているように感じます。

いわゆるコーポレートサイトは、受動型ウェブの代表です。コーポレートサイトの目的は企業の広報/宣伝を行うことであり、企業のコンテクストを主張するものです。例えば商品の魅力を伝えようと、刺激的かつ一方的な表現でコンテンツを編集します。単純に言えば、オンラインの広告です。

コーポレートサイトにアクセスするユーザーの目的は、その企業の情報や商品/サービスの情報を知ることです。ただし、誰でも経験があると思いますが、複数の企業(メーカー)にまたがって同一ジャンルの商品を比較しようとした場合、コーポレートサイトはほとんど役に立ちません。宣伝文句は客観性に欠け、良いことしか書いておらず、他社製品との直接的な価格/スペック/評判の比較はほとんど提供されていないからです。またコンテンツのフォーマットもサイトごとに違うので、自力で情報を集めて比較するのはかなり困難です。つまりコーポレートサイトは、「購買の意思決定支援ツール」としては機能しないのです。

だから我々は通常、ECサイトや価格比較サイトや口コミの評判が掲載されているようなサイトなどをみて意思決定を行います。これらのサイトは、意思決定支援ツールとして、もしくは商品購入ツールとして役立ちます。

コーポレートサイトの中にも、もちろん、問い合わせや資料請求などの機能があります。しかし多くの場合、これらは付加的なものであり、サイト自体をユーザーにとってのツールとして設計している企業はあまり多くありません。例えばもしメーカーが自社サイトを「ユーザーにとってのツール」にしようとするなら、競合同士でコンテンツのフォーマットを統一し、オンライン販売のインターフェースを一元化するなど、ユーザーがそのジャンルの商品を「買いやすくする」必要があるでしょう。現在のインターネットでは、それぐらいの変革が起きても不思議はないと思うのですが、どうもその気配はありません。

僕はこのようなコーポレートサイトの在り方に疑問を感じ、自分の会社のウェブサイトを作った際にちょっとしたチャレンジをしてみました。コーポレートサイトを少しモードレスにする試みです。

自社サイトをモードレスにするために、まず最初に掲げたコンセプトは、「潜在顧客層が我々の会社を利用するためのユーザーインターフェースとする」というものでした。サーバーには自社が提供するサービスに関連する情報が格納されていて、サイトはその情報を検索するツールであるという考え方です。

検索ツールとして表現するためには、検索対象となるデータオブジェクトの単位を決める必要があります。そこで、コンテンツになりうる情報を分析し、エンティティとしてのクラス定義を行いました。例えば「サービス」というクラス、「ニュース」というクラス、「UIデザインパターン」というクラス、「書籍」というクラス、などです。

トップページには代表的なクラスの一覧がアイコンで見えていて、そのうちのひとつをクリックすると、インスタンスの一覧が表示されます。これがデータオブジェクトの単位です。そしてひとつのインスタンスを選ぶと、その内容が表示されます。

トップページを除いて、サイト全体が「一覧」と「詳細」というたったふたつのテンプレートでできており、それはクラスとインスタンスの関係になっています。コンテンツは全てオブジェクトとして表現されるので、タスクをベースにした分類や階層はありません(コンテンツの分類名が「◯◯する」とタスク指向になっているサイトはたいてい使いにくいです。タスクではなく閲覧対象のエンティティを直接示すべきです)。また全ての「詳細」ページが、インスタンスとして1ページで完結しています。

もうひとつ、潜在顧客にとってのユーザーインターフェースとなるためには、我々の会社にコンタクトするための「問い合わせ」機能が重要になります。そこで、サイト内の全ページに問い合わせフォームを設置しました。

問い合わせフォームは、通常は邪魔にならないように閉じていて、ユーザーがボタンをクリックするとディスクローズして表示されます。そして、ここが重要なのですが、僕はそのディスクローズボタンのラベルを「問い合わせ」としました。

問い合わせフォームにアクセスするためのラベルが「問い合わせ」となっているコーポレートサイトを、僕は他に見たことがありません。普通は「お問い合わせ」となっているのです。でも「お問い合わせ」はおかしくないでしょうか? 少なくとも、ユーザーインターフェースのラベルとしてはおかしいでしょう。オブジェクトを示すにせよ、タスクを示すにせよ、ラベルに「お」は要らないのです。なぜなら、ラベルはユーザーがシステムに対して入力するパラメーターを選択肢として提示したものであり、ユーザーの視点に立ったものだからです。「お問い合わせはこちら」といった運営者からの語りかけであれば良いのですが、ユーザーインターフェースのラベルとして「お問い合わせ」は、かえってユーザーをおちょくっている感じになってしまうのです。

こういうおかしなラベルがコーポレートサイトに氾濫しているのは、運営者が自社のサイトをアプリケーションとして捉えていない証拠だと思います。またコーポレートサイトを作っているデザイナーも、ユーザーインターフェースとしての設計視点や、シンタックスについての意識が、不足しているのだと思います。

いずれにしても、システムをモードレスなアプリケーションにするためには、コンテクストをユーザーに解放し、ユーザーサイドの視点で全体のイディオムを設計する必要があります。オーナーサイドの視点でコンテクストを主導すると、システムはモーダルになっていくわけです。

  • モードレス:ユーザーサイド
  • モーダル:オーナーサイド
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