Web

DTP というのは、印刷物のイメージをパソコンのスクリーン上で作る仕事です。版下や刷版を作る前に画面でほぼ完全なプレビューを得ながら作業できるという点では画期的なのだと思いますが、あくまでそれはプレビューであり、アウトプットそのものではありませんから、作業をしていてもなんとなく靴の上から足をかいているようなもどかしさがあります。なので僕は、コンピュータのスクリーンが最終出力先であるウェブの仕事に転職しました。ウェブには、僕がやりたかったバンド音楽や絵画や写真や小説などが全部あるような気がしたのも理由です。

スクリーン上でレイアウトをしたりグラフィックを作ったりするという意味では、ウェブのデザインは DTP の作業とよく似ていました。ただひとつの大きな違いは、ユーザーインターフェース要素を沢山作らなければならないということでした。例えばナビゲーションのメニューとか、ボタン状のリンクなどです。これらは紙媒体には無い要素でした。

当時(1997年頃)はほとんどがスタティックなページだったので、同じような部品のバリエーションを全て手作業で作っていました。しかも、見栄えを気にする要素は文字であってもどんどん画像で作っていたので、100個もあるメニュー項目の通常状態とハイライト状態を全部画像で作るなど、地味な作業が膨大に発生していました。そういうのはかなり忍耐力のいる仕事でしたが、それでも僕は、ユーザーインターフェースを作っているということが嬉しくて、結構楽しんでいました。

例えば、Photoshop の鉛筆ツールを駆使してアンチエイリアスフリーのグラデーションを作ったり、ウェブセーフカラーのカスタムパレットを自作して全ピクセルの RGB 値を把握しながらイラストを減色するなど、スクリーン表示を前提に如何にグラフィックを最適化するかといったことに情熱を傾けていました。僕は自分に、ピクセルマッドネスというニックネームをこっそりつけていました。

僕は相変わらず Mac が好きで、仕事でももちろん使っていました。周りにも Mac 好きの人が沢山いて、かなり幸せな職場でした。

そんなある日、僕は何かのきっかけで(どういうきっかけだったのか思い出せないのが悔しいのですが)、apple.com のサイトに Apple Human Interface Guidelines なるドキュメントが掲載されていることを知ったのです。そういえば、以前に一度本屋でそんな感じの書籍を見かけたことがあるような気がしましたが、その時はなぜか手に取らず、それきり忘れていたのでした。

オンラインのそれは、HTML と PDF になっていて、誰でも無料で読めるようになっていました。僕は PDF をダウンロードして、最初から読み始めました。それは衝撃的な内容でした。僕は読み進めるうちに、なんだか目頭が熱くなってくるのを感じました。

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