Modeless Design Advent Calendar 2025

道具が持つ再帰性

December 22, 2025

『モードレスデザイン』- 9 創造すること – 作ることは使うこと より

道具的な物を作り使うという営みは、その内部への分析と外部への統合を往還的に行うということである。そして内部からの欲求と外部からの要求をそれらのあわいにおいて調整するということである。両者は形という境界を通じて代謝されるが、その境界は代謝によって作られ、また更新され続ける。デザインというものを自己創出的な営みとして考えると、インターフェースについての現象学的な観点が明らかになってくる。インターフェースはそれ自体の客観ではなく、それを知覚する主観において現れる。我々の生活はそこで了解されている。世界は道具性の連関であり我々もその内部に在るが、その在り方とはつまり、物を作り使うということである。

道具を作り使うことが人を人たらしめた。誰もが皆、制作者であり使用者である。作ることと使うことはひとつの現象である。本当に作るには作る者がそれを使わなければならないし、本当に使うには使う者がそれを作らなければならない。ブリコラージュとドッグフーディングの本質は同じである。自分が作ったものであっても一体何が作られたのかは使ってみなければわからない。しかも本当に使う者として使わないといけない。同様に自分が一体何を使っているのかは作る者として関与しなければわからない。デザイナーは使用者となって作り、また使用者をデザイナーとして捉えなければならない。須永剛司は次のように言う。

使い手は、ものごとを利用するときにかたちを見いだし、そのなかに与えられたメッセージを読みとっているのだ。かたちからものごとのはたらきを解釈し、活動のかたち、ライフスタイルと言われる生き方のかたちを自らデザインしている。つまり、使い手もまたかたちの専門家であり、活動のデザイナーでもあるのだ(★18)。

どんなデザインも、それにアクセスする者にとって創造の契機になる。デザインは、人をデザイナーにする。道具が作られ、それが使われる、という順番ではない。道具のデザインは「使う」を「作る」ことであり、また「作る」を「使う」ことである。両者は同時である。デザイナーは道具を使い道具を作るが、その際にはその作られた道具が道具を作るために使われることをイメージしながら作る。デザインの作業では作ることと使うことのどちらを行っているのか非常に曖昧になる。だから道具をデザインすることには際限のない魅力がある。それは道具が持つ再帰性への展望的な憧憬だ。道具の中には、使うことと作ることが同時に、生き生きと息づいている。

我々はいろいろな物の性質を利用しながらそれらをうまく組み合わせることで新しい物を作る。そのような営みを限りなく続けている。デザインは物の組み合わせを工夫することであると同時に、作られた物が別の何かの一部になりやすいようにすることでもある。そのためには作られた物が使う者の行為に素直に反応するようになっていることが望ましい。物がそれ自体への解釈を暗黙的に前提することなく、いつも行為の可能性に開かれている、つまりできるだけモードレスであることが望ましいのである。モードレスデザインは我々の創造の循環を促す。モードを解除していくこの活動は、我々にデザインについての新しい視点をもたらす。

イタリアのデザイン研究者、エツィオ・マンズィーニは、2019年の著書『日々の政治』の中で、誰もがデザイナーとして自分の日常や人生を選択しなければならないと言っている(★19)。現代では伝統が消滅し、かつて人々の生活を導いていた慣習は消えつつある。我々は人間が本来的に持っている「デザイン能力」を使って、自身のライフプロジェクトを実行しなければならないのだという。

このポスト伝統社会では、人々が新たな問題に直面し、まだ誰も経験していない状況で動かなければならない場合、自分が好むかどうか、どうなりたいか、何をしたいかを、自分自身で決めることになる。さらに、自分で決めたことを成し遂げるために、適切な方向に向かうように(またはせめてその方向に近づくように)動かなければならない(★19)。

マンズィーニによれば、自分自身の生活にデザインのアプローチを取り入れることで、物事に対する感覚が再定義され、これまで支配的だった物事の論理が覆されるのだという。そこで取られる選択はおそらく、競争するのではなくスピードを落としてゲームの枠外に出ること、競合するのではなく他者と協力すること、相手を潜在的な敵と見做すのではなく共感を持って接することだという。ライフプロジェクトをデザインするために、我々は日々の活動の中で出会うものを再解釈して、自分のコンテクストと接続させる。そして、その意味や用途、あるいは物理的な性質まで変化させていく。つまり我々はブリコルールのように振る舞わなければならないのだとマンズィーニは言う。


  • ★18 須永剛司『デザインの知恵』2019,フィルムアート社
  • ★19 エツィオ・マンズィーニ『日々の政治』2020,BNN